鏡を見るたびに気になってしまう前歯の隙間。「昔はこんなに開いていなかったのに……」「生まれつきだから治らないの?」と悩んでいませんか?
専門用語で「空隙歯列(くうげきしれつ)」と呼ばれるすきっ歯には、実は明確な原因があります。すきっ歯の原因は、生まれつきの歯の性質だけでなく、無意識に行っている毎日の習慣にあることも多いのです。
すきっ歯の原因を正しく特定しなければ、いくら矯正しても後戻りしてしまう可能性があります。
この記事では、歯科専門家の視点から、すきっ歯を引き起こす主な原因を詳しく解説します。
- すきっ歯を引き起こす主な原因
- すきっ歯を放置するリスク
- すきっ歯の最適な治療法
- すきっ歯に関するFAQ
すきっ歯(空隙歯列)になる3つの主な原因
専門用語で空隙歯列と呼ばれるすきっ歯の状態には、明確な発生原因があります。
生まれつきの歯の性質による先天的要因、口の中の構造による身体的要因、そして病気や習慣による後天的要因の3つに分類されます。
原因が異なれば、当然選ぶべき治療法も変わってきます。
まずは、なぜ自分の歯に隙間ができてしまったのか、その根本的な理由を知ることから始めましょう。ここでは、すきっ歯の原因について詳しく解説します。
先天的要因:歯が小さい(矮小歯)・足りない(欠損歯)・多すぎる(過剰歯)
生まれつきの歯の数や形が、顎のサイズと合っていない場合があります。
最も多いのは、歯そのものが通常よりも小さい矮小歯と呼ばれる状態です。
特に、前から2番目の側切歯が円錐状に小さくなっていることが多く、顎のスペースに対して歯が小さすぎるため、パラパラと隙間が空いてしまいます。
また、本来生えてくるはずの永久歯が足りない先天性欠如も原因の一つです。歯の本数が少なければ、当然スペースが余り、すきっ歯となります。
逆に、過剰歯といって、余分な歯が顎の骨の中に埋まっている場合もあります。この埋伏した歯が壁となり、前歯同士が中央に寄るのを邪魔して、真ん中に隙間を作ってしまうのです。
身体的要因:上唇小帯(じょうしんしょうたい)の発達異常
鏡を持って、上唇をめくってみてください。唇の裏側から歯茎の中央に向かって伸びる、一本のスジが見えるはずです。これを上唇小帯と呼びます。
通常、このスジは成長とともに歯茎の上の方へと退縮し、目立たなくなります。
しかし、大人になってもこのスジが太く発達したまま、前歯の真ん中に入り込んでいることがあります。この強力なスジが繊維の壁となって、左右の前歯がくっつこうとするのを物理的に邪魔してしまうのです。
これは正中離開と呼ばれ、前歯の真ん中だけが開くすきっ歯の代表的な原因です。
後天的要因:歯周病や加齢による歯茎の下がりと歯の移動
昔はきれいな歯並びだったのに最近隙間ができてきた場合、最も疑われる原因は歯周病です。
歯周病とは、歯を支えている顎の骨を溶かしてしまう病気です。
土台となる骨が減ると、歯は支えを失ってグラグラと不安定になります。この状態で噛む力が加わると、歯は圧力に負けて徐々に動いてしまいます。
特に前歯には、噛み合わせの力によって外側へと扇状に広がっていくフレアーアウトという現象が起きやすく、隙間が目立つ原因となります。
また、加齢によって歯茎が下がることで、歯の根元の細い部分が露出し、隙間が空いたように見えることもあります。
無意識でやっているかも?すきっ歯を悪化させる日常の悪習慣
無意識に行っている日々の癖が、間接的にすきっ歯の原因になってしまう場合があります。悪癖によって時間をかけて歯が動き、隙間が広がるケースが非常に多いです。
矯正治療で歯並びをきれいに治したとしても、これらの悪習慣が残っていると、再び歯が動いて後戻りしてしまうリスクが高まります。
悪癖によるすきっ歯を根本的に解決するためには、原因となっている癖を自覚し、改善することが不可欠です。
ここでは、すきっ歯の間接的な原因となる代表的な3つの悪習慣について解説します。
飲み込む時などに前歯を舌で押してしまう舌癖
最も歯への影響力が大きく、かつ無意識に行われやすいのが舌癖です。
リラックスしている時、あなたの舌はどこにありますか。舌の先が上の前歯の裏側に触れていたり、上下の歯の間に挟まっていたりする場合は要注意です。
本来、舌は上顎の天井部分(口蓋)に吸着しているのが正しい位置です。
また、飲み込む動作をする時に、舌で前歯を裏側から強く押し出してしまう人もいます。
人は1日に千回以上も飲み込む動作を繰り返します。そのたびに舌で前歯をグイグイと押し続けていれば、弱い力であっても歯は徐々に外側へと広がり、隙間ができてしまいます。
唇を噛む圧力
爪を噛む、タオルを噛むなどの癖も、特定の前歯に強い負担をかけます。
下唇を上の前歯で噛む癖がある場合、下の唇が上の前歯を外側へと押し出す力として働き、出っ歯やすきっ歯を誘発します。
頬杖
口の中からの圧力だけでなく、外側からの圧力も歯並びを歪ませる原因となります。
中でも頬杖をつく癖は、数キログラムもの頭の重さが顎や歯に一点集中してかかります。毎日同じ方向から力が加わり続けることで、歯列アーチが歪み、歯と歯の間に隙間が生じることがあります。
口呼吸による口周りの筋肉・口輪筋の緩み
鼻炎や癖で口呼吸が常態化している場合、間接的にすきっ歯の原因となり得ます。
常に口が開いている状態は、口の周りの筋肉である口輪筋が緩んでいることを意味します。
歯並びは本来、内側からの舌の力と、外側からの唇や頬の力のバランスが取れる位置に自然と並ぶようになっています。
しかし、口呼吸で唇を締め付ける力が弱まると、舌が歯を外に押し出す力の方が強くなってしまいます。
その結果、前歯が前方に広がり、扇状に開いて隙間ができる原因となります。
見た目だけじゃない!すきっ歯を放置するデメリット
すきっ歯のデメリットというと、どうしても見た目のコンプレックスばかりに目がいきがちです。しかし、歯科医が警鐘を鳴らすのはむしろ機能面や健康面への悪影響です。
すきっ歯を放置すると、口の中だけでなく全身の健康リスクを高めます。
ここでは、すきっ歯を放置することで生じる具体的な3つのデメリットについて解説します。
発音が不明瞭になりサ行・タ行の滑舌が悪くなる
歯と歯の間に隙間があることで生じる大きな弊害は、会話をする時の発音の悪化です。特に、サ行やタ行の発音がしにくくなるため注意が必要です。
サ行やタ行の音は、歯の裏側に舌を当てたり、歯の隙間から鋭く息を出したりして発音します。
すきっ歯の場合は歯の隙間から空気が漏れてしまうため、どうしても空気が抜けたような不明瞭な音になってしまいます。
電話越しで相手に聞き返されることが多い、英語の発音がうまくできないといった悩みは、実はすきっ歯が原因であるケースも少なくありません。
食べ物が詰まりやすく、虫歯や歯周病のリスクが増加する
すきっ歯だとどうしても避けられないのが、食べ物が挟まりやすいという問題です。
食事のたびに繊維質の野菜や肉が隙間に詰まると、不快なだけでなく、口内環境を著しく悪化させる原因となります。隙間に挟まった食べカスは、歯ブラシでは毛先が届きにくく、取り除くのが困難です。
歯と歯の隙間に長時間汚れが停滞することで、そこから虫歯菌や歯周病菌が繁殖します。
歯周病は、歯を支える骨を溶かすため、歯と歯の間にさらなる隙間を作る原因となります。
歯周病を放置すればするほど隙間が広がり、汚れが溜まりやすくなるという負のサイクルに陥ってしまう場合があります。
噛み合わせのバランスが崩れ、全身の不調に繋がる
すきっ歯は単に歯が離れているだけでなく、上下の歯が正しく噛み合っていない状態を伴うことが多いです。
噛み合わせが悪いと、食事の際に左右どちらかの歯ばかりを使って噛む癖がついたり、顎の関節に無理な力がかかったりします。
このアンバランスな筋肉の使い方が、慢性的な顎関節症や、首や肩のこり、頭痛といった全身の不調を引き起こす引き金になります。
また、食べ物を十分に噛み砕けないまま飲み込むことになるため、胃腸への負担が増加し、消化不良を招くリスクもあります。
大人のすきっ歯は治せる?治療法の選び方と費用
すきっ歯はのコンプレックだけど子供の頃からだからと、諦めていませんか。
今さら治せないと思う必要はありません。大人のすきっ歯は十分に治療可能です。
むしろ、顎の成長が完了している大人だからこそ、治療計画が予測通りに進みやすく、豊富な選択肢の中から自分に合った方法を選ぶことができます。
治療法を選ぶ際の基準は、隙間の大きさ、治療期間、予算、そして歯を削ることに抵抗があるかです。
ここでは、すきっ歯の代表的な3つの治療法について、それぞれの特徴と費用相場を解説します。
ダイレクトボンディング:小さな隙間を即日で埋める
前歯の隙間が1ミリから2ミリ程度と小さい人が、できるだけ費用を抑えて短期間で治したい場合に最適なのがダイレクトボンディングです。
ダイレクトボンディングとは、歯科用の硬質プラスチック(レジン)を隙間の部分に直接盛り足して、歯の幅を広げることで隙間を埋める方法です。
最大のメリットは、歯をほとんど削らずに済み、多くの場合1回のみの通院で完了することです。費用も自費診療の中では比較的安価で、1箇所あたり2万円から5万円程度が相場です。
ただしプラスチック素材を使用するため、数年経つと変色したり、硬いものを噛んだ時に欠けたりするリスクがあります。
また、歯の隙間が大きすぎる場合には適用できません。
ラミネートベニア・セラミック矯正:色や形も同時に整える
隙間を埋めるだけでなく、生まれつき小さい歯(矮小歯)の形を整えたい、歯の色も白くしたいという審美的な要望がある場合は、セラミックを使用した治療が推奨されます。
ラミネートベニアは、歯の表面を薄く削り、セラミック製のシェル(薄い板)を付け爪のように貼り付ける方法です。
歯へのダメージを最小限に抑えつつ、美しい見た目を手に入れられます。費用相場は1本あたり10万円から15万円です。
セラミック矯正は、歯を全周削って被せ物をする方法です。歯の向きや軸まで変えたい場合に有効ですが、歯を大きく削る必要があります。
いずれも変色せず耐久性に優れていますが、健康な歯を削るという不可逆的な処置が必要になります。
マウスピース矯正・ワイヤー矯正:歯並び全体を根本から整える
健康な歯を一切削りたくない、隙間だけでなく噛み合わせも含めて根本的に治したいという場合は、矯正治療が唯一の選択肢です。
矯正治療では、歯に力をかけて骨の中を移動させ、歯と歯の間のスペースを閉じていきます。
近年人気なのが、透明で目立たないマウスピース矯正です。軽度のすきっ歯であれば前歯だけの部分矯正で対応できることも多く、期間は数ヶ月、費用は30万円から40万円程度に抑えられます。
全体的な噛み合わせを治療する場合は、80万円から100万円程度の費用と、1年から2年の期間が必要です。
矯正治療には時間もコストもかかりますが、自分の歯を温存し、機能的にも健康な状態を目指せるのが最大のメリットです。
すきっ歯の原因に関するよくある質問(Q&A)
すきっ歯について、インターネット上には様々な情報が溢れています。中には医学的に根拠のない噂や、危険な自己判断を促すものも存在します。
ここでは、診療現場で頻繁に質問される3つの質問について、歯科医師監修の正しい回答をお伝えします。
Q1. 子供のすきっ歯(発育空隙)は自然に治りますか?
A. 乳歯から永久歯に生え変わる時期の子供であれば、自然に治るケースがほとんどです。
この時期の隙間は発育空隙と呼ばれ、これから生えてくる大きな永久歯がきれいに並ぶために必要な予備スペースです。
特に上の前歯は、生え始めの頃はハの字に開いているのが一般的で、これをみにくいアヒルの子時代と呼びます。その後、脇から犬歯が生えてくる圧力で自然と真ん中に寄せられ、隙間は閉じていきます。
ただし、上唇小帯の異常や過剰歯が原因である場合は自然治癒しません。
小学校高学年になっても隙間が閉じない場合は、一度歯科医院でレントゲンを撮って確認することをおすすめします。
Q2. 親知らずが生えてくると、すきっ歯は治りますか?
A. 親知らずが奥から歯を押すことで前歯の隙間が埋まるのではないかと期待される方がいますが、結論としては期待できません。
確かに親知らずには手前の歯を押す力がありますが、その力はコントロールできるものではありません。
隙間をきれいに閉じるどころか、弱い歯を弾き出してガタガタの歯並びにしてしまったり、噛み合わせを崩したりするリスクの方がはるかに高いです。
親知らずを利用して矯正するケースもありますが、あくまで矯正装置を使って精密にコントロールします。
親知らずによって自然に歯が動き、すきっ歯がきれいに治ることはまずありません。
Q3. 自力で輪ゴムなどを使って隙間を埋めてもいいですか?
A. 絶対にやめてください。
インターネット上では輪ゴムを使った自力矯正の方法が紹介されていることがありますが、これは極めて危険な行為です。
歯の状態によっては最悪の場合、ゴムが歯茎の中に食い込んで歯周組織を破壊し、歯が抜け落ちてしまうことさえあります。
市販の輪ゴムは歯科用ゴムとは全く別物でありコントロールできないため、力が強すぎるおそれがあるためです。
また、急激な歯の移動で歯の神経が死に、変色することもあります。
一生の後悔をしないためにも、自力での無理な対処はせず、必ず専門家の治療を受けてください。
まとめ:すきっ歯を治療するならまずはプロに診断を
すきっ歯が生まれつきの骨格の問題なのか、無意識の癖によるものなのか、それとも歯周病の進行によるものなのか。原因によって、選ぶべき治療法も対策も異なります。
歯科医師による正確な診断を受けることが、理想の笑顔への最短ルートです。
癖が原因なら、治療と同時にトレーニング(MFT)が必要
すきっ歯の原因が舌の癖や口呼吸にある場合、悪癖を治すことが最も重要です。
すきっ歯を根本的に治すためには、歯科医院でMFT(口腔筋機能療法)と呼ばれるトレーニングを受け、正しい舌の位置や飲み込み方をマスターする必要があります。
治療とトレーニングを並行して行うことが、美しい歯並びを維持する鍵となります。
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すきっ歯を治す方法は一つではありません。短期間で治したいのか、歯を削りたくないのか、費用を抑えたいのか。希望やライフスタイルによって、最適な治療法を選べます。
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